突然ですが皆さん、「国道」って聞くと、どんな道を思い浮かべますか?
こんな道??

それとも、こんな道??

いえいえ。今回走る国道はこんな感じです。

ここは国道425号線。
和歌山県御坊市と三重県尾鷲市をつなぐ、紀伊半島を横断する総距離210kmほどの一般国道。
なにがすごいかというと、その状態の酷さ。地元ではその名前をもじって「シニゴー(死にgo)」と呼ばれているほどです。
説明するよりも見ていただくのが早い。さっそく走りに行ってみましょう!!
スタート地点 和歌山県御坊市
和歌山県御坊市塩屋町 塩屋交差点へやってきました。国道425号線の始点は意外にもいわゆる普通の交差点という感じの場所です。

今回は国道425号線をふたつにわけ、1泊2日で走りたいと思います。
1日目のルートはこんな感じ。
出発し、まずは10分ほど人里を走ります。
それほど交通量は多くないものの民家や田んぼが途切れなくあり、この道が人々の生活に根ざした道であることがわかります。

和歌山県印南町方面へ向けて山道へ入ると思われたのですが、予想外に道がきれいです。
おや?と思っていたところ、印南町付近は改良が進められ、道路環境が良くなっているようでした。
道中は交通量が多く何度も車とすれ違いました。酷道のままでは不安を感じ、綺麗な道を望む声も多いのかもしれません。
忍び寄る酷道の気配 和歌山県龍神村
はてさて、このきれいな区間はどこまで続くのだろう?
逆に不安になり始めた頃、和歌山県龍神村へ向かう途中で酷道の影がついに顔を覗かせました。

徐々に道が荒れてきました。
酷道を走ったことがない方には信じられない話かもしれませんが、国道425号線は林業にも使用される、つまり林道としての役割も担う道です。
というか、もともとは林道だったものが国道に格上げされた区間もあります。
そういった道では路面には杉の葉っぱが路面に散らばっています。葉っぱの上は滑りやすいので気をつけて走りましょう。

小又川トンネルでは国道425号線を通る人へ、このように警告をしています。

本宮(川湯・渡瀬・湯峯温泉)に向かう方へ
国道425号は、急峻な山岳部で道路幅員もせまいため、本宮(川湯・渡瀬・湯峯温泉)方面へ向かう方は、下記の道路(赤線)をご利用ください。
急峻…。
きゅうしゅん……?
看板内の地図を見るとわかるのですが、距離だけを見ると一見国道425号線を通った方が龍神村から本宮まで近いように見えるのですが、道が狭く勾配が急な(そして直接的な表現はありませんが路面が汚い)ため、遠回りのように見える国道311号線を使った方が早く着けるということなのです。

いったいどんなヤバい道なんだ…。
今回の企画はそのヤバい道を走るのが目的なため、どれだけ時間がかかろうと、しんどかろうと、国道425号線を進ませてもらいます。
トンネルを抜けるとそこは酷道。入って早々物騒です。幸先がいいですね。

何回教えてくれるんだってぐらい念押ししてくる。

その警告に嘘はなく、道路の真ん中には苔が生え、小石が散らばっています。

みなさんも峠道を走る際に橋を渡る機会がよくあると思いますが、国道425号線の橋は一味違います。
「ガードレールがあるだけ幸せだと思え」と言わんばかりのこのコンディション。
橋の上は水はけが悪くビショビショな上、渡った先はアスファルトが砕けて砂利道のような状態です。

これ、真冬に凍結した場合はどうなるのでしょう。気になります。
状況からなんとなく想像がつくと思いますが、当然この付近も林業が盛んです。
何度も言いますが、ここは国道です。

杉の木が倒れかけていてビックリしましたが、万が一道路をふさいでしまった場合はしっかり撤去してもらえるはずです。たぶん。
その後もひたすらに
崖を通りすぎ、

巨大な水たまりを越え、

障害物を避け、

砂利道でタイヤをとられ、

崩壊した小屋の横を通り、

ようやく奈良県十津川村へ突入しました。

日本最大の村に突入 奈良県十津川村
十津川村に入っても激しい道は続くため、改めて注意喚起がなされています。

このあたりは標高が高く一気に下る道も多いため、間違えて転落すると、とんでもない高さから落ちることになります。
これまで以上に気を引き締めて進みましょう。
相変わらず林業の地であるため杉が整然と並ぶ道を進むのですが、

ん?

んん??

なにかと思えば折れた電柱です。
前者は3分の1ほどの高さでポッキリと折れ、後者は根元からなぎ倒されています。
一体何があったというのでしょうか…。
今の私たちに知る術はありませんが、電線は通っていないようなので安心しました。
見どころとして、国道と農道に分かれる分岐点があります。

ひとたび標識を隠してしまえば、どちらがどちらかわからなくなるでしょう。
そして今度はなぎ倒されたガードレール。

もはやなにを見ても驚かなくなってきましたが、どうも事故をした痕跡に見えるのです。
ぶつかった車両は無事なのでしょうか…。
転落せずになんとか持ちこたえたように見えるあたり、ガードレールの底力を感じました。
そうこうしているうちにようやく十津川村の中心部へ到着しました。

国道168号線との合流を境に、425号線は一旦とぎれます。
せっかくやってきたので、私が奈良の中でも抜群に旅行にオススメする場所である十津川村についてご紹介させてください。
ここ十津川村は最後の秘境とも呼ばれる、静かで澄み渡った空気を持ち、そして日本で一番大きな面積を誇る村です。
特に世界遺産に指定されている熊野古道が通る「天空の村」と呼ばれる果無集落はとにかく神秘的で美しく、一度は訪れるべき場所です。

伊勢神宮から熊野三山へ向かう人々が祈りを捧げ歩いてきた道がほとんどそのまま残っており、その中で集落の方々が静かに暮らされています。
日本の原風景とも言える景色に息をのむほどの感動を覚えました。
十津川村内には3つの温泉地があり、そのすべてがかけ流し温泉という贅沢な環境です。
その一部をご紹介すると、
河原の露天風呂(男湯)と洞窟風呂(女湯)


すぐ隣を流れ落ちる滝を眺めながら入れる露天風呂、


充実設備のホテル、

シャワーからも温泉が出る、湯質抜群の日帰り温泉、


個性豊かな温泉たちを巡れば心も体もポカポカになりますよ!
非常に魅力的な村なので、お近くにお越しの際はぜひ立ち寄ってみてください。
3つの滝を独り占め 奈良県十津川村-下北山村間
さて、酷道に戻りましょう。
十津川村の中心を通り抜けると再び国道425号線に入ります。
もともとはこの部分も425号線なのですが、
通行止めだったため、

2020年12月時点では新168号線道路より途中で降りる形で行くのが正解です。
一応さっきの行き止まりの反対側も見に行ってみましたが、

ここから先は工事車両以外立ち入り禁止となっていました。
いよいよ本日の宿泊地である下北山へ向かって走りましょう。
龍神―十津川間のような道を想像していたところ、

意外ときれいな道という印象です。
そしてなによりの違いは交通量。意外と多いんです。

特に車同士ではすれ違うのが難しい道幅なのですが、何台も向こう側からやってきます。
これには理由があり、この先に「天空の村」という新しいアクティビティ施設がオープンしたばかりで、3連休のまっただなかである今日は多くの人が遊びに訪れているようでした。
そんな十津川―下北山間の魅力は3つの滝です。
走り始めて5分ほどでひとつめの「不動滝」が見えてきました。

高さと、水で削り取られ露出した岩肌の立体感から醸し出されるワイルドさが魅力的な滝です。
川を挟んで対岸にあるため、遠くからその全体像を眺めることができます。
不動滝を出てさらに5分ほど進むとふたつめの滝、清納の滝へ続く小道があります。

小道の前には砂利道の空き地があるのでこれが駐車場ということでよいのでしょうか…??

小道を徒歩で進んだ先にある階段を降りるとそこには

まさに大自然。神秘的な雰囲気をまとった滝と、透明度の高い水で満たされた滝つぼがありました。
とにかく空気が澄んでいて、呼吸をするだけで肺が透明になりそうなぐらい。
国道から奥まったところにある点も手伝い、現実離れした雰囲気を味わうことができました。
こんなに素晴らしい滝を独り占めできるのも酷道ならではです。
さて、清納の滝を出発してさらに5分ほど走ると、今度は見下ろすような形で大泰の滝が姿を現します。

先ほどの2つの滝が山の上から崖を流れ落ちるものであったのに対し、この大泰の滝は川の途中に段差が生まれ、そこが滝になっているタイプのものです。
横幅が大きいため水量が多い時は大迫力ということでしたが、今日は残念ながら少なめの水量。
その代わりゴツゴツとした岩の表面を流れる水の動くのを目で追うことができ、不規則な動きは飽きることなくずっと眺めていられるものでした。
大泰の滝の付近には駐車できるスペースがないため、滝の手前の道路の広いところに駐輪し、歩いて見に行くことをおすすめします。
3つの滝を通り過ぎたあとに十津川村の新スポット「空中の村」があります。

木々の間を張り巡らされた橋やネットを渡りながら遊んだり本を読んだりお茶をしたり、対象年齢は3歳から100歳までと幅広く楽しむことができるアスレチック施設ということです。
バイクに乗るのに疲れた方は一休みしてもいいかもしれませんね。
空中の村を通り過ぎるといよいよ酷道の本領発揮。
道の真ん中に大きく開いた穴とぐちょぐちょの落ち葉は転倒に注意です。

黄色いチューブはもしかして、ボコボコになったガードレールの代理なのでしょうか?

この水たまりはもはや川と言っても過言ではないと思います。

水たまりのせいで影が薄いのですが、右端の落石はもはや岩といっても良いサイズではないでしょうか。
気が付かないうちにずいぶん山奥にやってきました。
このあたりは圏外の場所も多く、電波が入る場所のガードレールにはペンキで「ドコモ」と書いてあったりします。

ここまでくればあとすこし。一気に山を下ると、そこは下北山です。

人里に着いたため安心しました。下北山には食料品を扱う小売店が数店と、温泉施設やキャンプ場もあるため宿泊にはもってこいです。
時刻は16時。本日の走行はここで終了し、明日の朝より再出発することにしましょう。
本日の夕ご飯はおでんにしてみました。寒くなってきたので、暖かいお出汁がしみますね。

明日もたくさん走るので、備えて早寝をしたいと思います。おやすみなさい!
1日目まとめ
和歌山県御坊市→奈良県下北山村
合計153km 8時間(昼食・休憩含む)
全体的に酷道の名にふさわしくアトラクションじみたスリル満点の道であったが、特に龍神村―十津川村間は頭一つ抜けて荒れた道だった。
通行者に向けた注意喚起の看板も特に多く、看板を見て回るだけでも楽しめるほど。
THE酷道という道を走りたい方にはこの区間を走るのがオススメです。
対照的に御坊市-龍神村間は現在進行形で整備が進み、いい意味で走りやすく、悪い意味で普通の道になっていた。
酷道を走る者としては残念な気持ちもあるが、道路事情の中で一番優先すべきは利用する機会の多い地元の方々。
いつかは旧道を走ることを誓いつつ、これからもより良い道に改良されていくことを祈ります。