皆さんは「酷道」ってご存じですか?
国道の区分でありながら道幅や勾配、道路状況が酷い道のことを、愛好家の間では愛を込めて酷道と呼んでいます。
例えばこんな道。

ね?ワクワクしてきちゃうでしょ?
こんにちは、高木はるかです。
今回はそんな酷道の中でも有名な、国道157号線を走破しに行ってきました。
一体どんな道が待っているのかな?!
国道157号線が有名なワケ
国道157号線は石川県金沢市を起点に岐阜県岐阜市まで約200kmを繋ぐ道路。
中でも温見峠という福井・岐阜の県境付近が特に通行困難な酷道区間となっています。
冬の間は平年積雪2mの豪雪地帯であり、通常であれば12~5月の間は除雪が行われず、閉鎖されています。
それ以外の期間においても土砂崩れや倒木などによる通行止めが起きやすく、1年の半分近く(もしかしたらそれ以上)は通ることができないというアクセス難易度の高い酷道なのです。
さて、数ある酷道の中でもなぜ157号線が有名なのかと言いますと、ひと昔前にネット上でちょくちょく話題になっていたこんな感じの看板、皆様はご存じでしょうか?

この画像は見ての通り筆者が描いたイラストですが、実際に「落ちたら死ぬ」という世にも恐ろしい看板が随所に設置されていたのが、この国道157号線温見峠なのです。
路面の悪さはもちろん、崖っぷちなのにガードレール未設置な箇所が多く、元々は死亡事故が多発したことから設置されたこの看板。
諸説ありますが、死亡事故の減少や老朽化を理由に2018年に撤去されたため、現在では見ることができません。
看板がなくなったところで道路状況が改善したわけではありませんので、気を引き締めて、それではさっそく走りに行ってみましょう!!
街中から始まる酷道ツーリング ―岐阜県岐阜市
早朝6時半。やってきたのは岐阜県岐阜市です。
今回は国道157号線を南から北に上がるルートにて走破をする予定です。
山の中を走る気満々でやって来たのに、想像以上の都会っぷりに驚いております。

国道の始点や終点には、特に目印があるわけではありません。今回も、これまで走っていた岐阜県道163号線から前触れなく切り替わるため、意識して見なければそうとは気が付かないでしょう。
そのまま走り続けると、なんとJR岐阜駅と名鉄岐阜駅の横を通過します。
このあたりでもかなり栄えている場所のよう。

パっと見の印象ですが、JR前はビジネス街、名鉄前は繁華街という印象。まだ7時前であるにも関わらず通勤・通学中らしい人がたくさん歩いています。
私自身もある意味(酷道への)通勤途中のため、勝手に親近感を抱きながら大きな交差点を通過しました。
30分ほど走れば郊外と思われる場所に出てきます。
富有柿の生産地だそうで、見渡せば柿の木がたくさん生えています。

柿と言えばまっさきに思い浮かんだのが柿の葉寿司だったのですが、柿の葉寿司は奈良周辺の郷土料理で、岐阜では作られていないのだそうです。
これは奈良の柿の葉寿司

岐阜には似たような料理で朴葉寿司という、まだ青い朴葉の上に酢飯と具材を乗せて包んだものがあるそうです。
柿の葉にも朴葉にも殺菌作用があり、冷蔵設備のなかった時代に重宝されたのだそうです。
ちなみに柿の葉寿司は私の好物のひとつなのですが、朴葉寿司はまだ見たことがありません。飛騨付近で売られているそうなので、今度探しに行かないと…!
さて、走っているうちにだんだん道が寂しくなってきて

のどかな景色が広がり始めました。

天気がいいので、遠くの方に山が連なるシルエットが見えます。
私がこれまで住んできた地域は低山ばかりだったため、こんな風にそびえ立つ大きな山々を見ると、ずいぶん遠くに来てしまったなあと気づかされます。
遠くから見ている分には「キレイ」なんて思うだけなので良いのですが、あのデカい山は進行方向上にあります。つまり、これからあの山を越えていきます。
そう思うと急に、さっきまでのどかだった景色を見る目が変わります。
勘の良い読者の皆様にはわかりますね?そう、これは嵐の前の静けさなのです。
酷道の気配は徐々に色濃くなります。

大型車(長さ7.7mを超える車)はこの先通行不能になるというお触れです。
ちなみにトラックの区分を見てみると、一般的に4トントラックと呼ばれる中型トラックが全長12m以下ということです。
私自身はあまりトラックには詳しくないのですが、車種で言うといすゞの「フォワード」、日野の「レンジャー」、三菱ふそうの「ファイター」がこれにあたるということです。
いまいちピンと来なかったのですが、そういえば岐阜市内をスタートした時にちょうど前を走っていたトラックが、このサイズでした。なるほど。

つまりどういうことかというと、このサイズのトラックが通り抜けられないほどの幅員の道、または切り返せないほどのカーブが待ち受けているということです。
オラ、ワクワクしてきたぞ!!
そのまま10分ほど2車線道路が続いていたのですが、ついに1車線道路になりました。

道路としてはそこまで狭いものではなく、両端とも民家や空き地・田んぼなどが多いため、危機を覚えるほどではありません。仮に車で来たとしても気持ちに余裕を持って運転することができる範囲でしょう。
そんなことを考えながら走っていると、その考えを見透かされたかのように再度の警告が見えました。

最終回転場とのことです。
どこかから「余裕でいられるも今のうちだぞ」なんて声が聞こえてきそう。
その言葉通り、直後に急激に道幅が狭まるのです。いよいよ本性を現して参りました。

これが温見峠の入り口だ! ―岐阜県本巣市
午前8時。集落を通り過ぎればいよいよ本番です。
道幅はもちろんですが、落石などの路面の荒れも酷道の友です。
取材ではありますが、景色に気を取られ過ぎないよう、足元にも注意して走りたいです。
ちなみにかつてはここに「危険 落ちたら死ぬ!」の看板が置いてありました。

ここまで警告されてもまだ入ってくる大型車がいるのでしょうか?

入り口はとにかく警告が多い。本当に多い。とにかく覚悟をして走ってほしいという岐阜土木事務局の方の圧を感じるほど。
OK、覚悟は決めた。いざ、入山…!

入って僅か15分、警告通りに激しい道の連続です。
左上から苔が生えたアスファルト、落石が散らばる崖っぷち、落ちれば川へまっさかさま、湧水で湿った崖っぷちという感じです。

「落ちたら死ぬ!」の言葉通り、この道には崖が多いようです。
それもガードレールの無い高い崖ばかり。
左下の崖なんて、下を覗いてみるとこの通りです。

こりゃ落ちたらひとたまりもなさそう…。
この部分のみかなり新しい舗装だったので、近年の通行止めにて工事をされていたのは恐らくこの箇所なのでしょう。
入ってすぐの短い区間にこれほどの酷道要素が詰まっている道は、なかなかないのではないでしょうか。
濃い、濃いぞ、国道157号線!!
豊かな水源、酷道の元 ―岐阜県本巣市
少し進むとなにやらキラキラ光る滑り台のような川が見えてきました。これは一体なんだろう?

バイクを降りて見に行くと、反対側から地元の方が歩いてこられました。すれ違いながらご挨拶をすると、
「ビックリした、女性か」
とニコニコ朗らかなお爺ちゃん。この辺りで林業をされている方だそうで、跡継ぎの娘さんと一緒にこの辺りをまわっているところなんだとか。
それで…この滑り台はなんですか?
「発電所よ。ここからは見えんけど、奥で二股に分かれてて、そこで水力発電しとるの」
私が知っているどの発電所よりも小さくて美しくて、思わずエメラルドグリーンに輝く川をもう1度見つめ直してしまいました。こんな発電所、あるんだな。
水面では魚がポチャンと跳びはねている。
再びバイクに乗って走り出します。
雲一つない空の下で真夏のような太陽の光に当てられ続けているので、たまにある木陰が本当に気持ちいい。
木々のシルエットはまるで繊細なステンドグラスのよう。

暑いのは苦手なんだけどね、初夏から夏にかけての緑は、瑞々しくて好きです。
なごんでいたのですが、衝撃を受けました。まさかこの辺りにクマが出るなんて…。

本州に生息しているのは比較的小型でおとなしい性格と言われているツキノワグマ。それでも年に数十件の被害が起きており、もちろん人間よりもずっと力が強く、爪や歯も頑丈だ。
万が一出会ってしまった場合は刺激しないようゆっくり後ずさりで逃げるという知識は持っているけど、そんなに冷静に動ける気はまったくしない。
まずは出会わないことが一番。神様に祈るしかない。
そんな場所であるにも関わらず、ここには集落があります。
かつてはたくさんの方が自給自足で暮らしていたそうですが、今ではほぼ廃村となっているそうです。

ほぼというのは、通行止め期間中の冬は麓の街で暮らし、夏になると集落に戻って暮らしている方もいらっしゃるようです。今もまだその生活を続けられているかはわかりませんが…。
ほとんどが空き家であるはずなのですが、庭は誰かがお手入れをされているのかきれいに整っているお宅が多い印象です。

川が大きい。これだけ大きな川が存在するということは、それに見合うだけの水が存在するということ。
それを証明するのが、「落ちたら死ぬ!」看板と並んで温見峠の代名詞ともいえる洗い越し。
洗い越しとは川に橋をかけず、道の上を流れる状態にしてある部分のことを言います。
技術や費用などの問題から橋が建設されなかった場合に作られます。

実を言うと洗い越し、バイクで通るよりも徒歩で通った方がしんどかったりします。
足がビチョビチョだよ…。

温見峠内には他にもいくつかの洗い越しがあります。
こちらは大量の水が地面の傾斜によって勢いよく流れています。
深さもあるため、タイヤが水に沈みました。迫力を感じられる1本。

こちらは遠目に見ると一見水たまりのようにも見えるのですが、

奥には立派な滝と…え、川!?

川です。どう見てもただの川がすました顔で流れています。
水に手を触れてみると冷たくて気持ちいい!
きれいに透き通っていて、なんなら夏に川遊びができそうなほどです。
おかしいですよね、ここ、国道ですよ。
夢中になって洗い越しの写真を撮っていると、後ろから近付いてくるひとつの影。
酷道や林道を走っていると野生の動物に遭遇することは多々あるのですが(危ない)、犬のようにも見えたそれは、なんとキツネ。

非常に良くないことなのですが、誰かが餌をやっているようです。
人間と認識しながらも、慌ててバイクに飛び乗ってその場を離れようとする私の後をついてこようとします。
この後写真を撮ろうと停車した際に1度追い付かれてしまったのですが、私以外にも軽トラックを走って追いかけたり、車の前に飛び出すような行動を見せていました。
かわいいからと野生動物に餌を与えると自分の力で餌を得ようとしなくなります。そればかりか人間の食べ物は野生動物にはうまく消化できず、体力や免疫力が低下します。
いずれはこのキツネも車に轢かれたり、衰弱して病気になって死んでしまうのかもしれません。
無責任に餌を与えるのは動物のためにも人のためにもならないのです。
その後も温見峠は自重することなく国道っぷりを見せつけてくれます。
ブラインドカーブにも関わらずミラーがない場所では、思わず体を乗り出して対向車の有無を確認してしまいます。

そして午前10時、ついに岐阜―福井の県境へやってきました!
すごい道だったな~!!

前編まとめ
酷道区間に入った瞬間から短時間のうちに連続して見られる酷道っぷりは、もはや教科書に載せても良いほど。
かつて「落ちたら死ぬ!」という看板が置かれていたのも納得の強烈な道でした。

名物(?)のひとつである洗い越しは、水源が豊富だからこそ。
道中見かけた川や湧水が澄み切って、キラキラと輝いていたのが印象的でした。

崖や落石、湧水などの道路状況に対し、舗装の荒れだけは少なかったのは不思議です。
この先はどのようになっているのでしょうね?
実際に走りに行かれる方は、天気や道路状況を確認し、事故のないよう十分にお気を付けくださいね。
後編へ続く
今回のツーリングの様子はYouTubeにもアップしています。
見ていただけるととっても嬉しいです!!