バイクで走っていても暑さを感じる季節になってきました。こんにちはワールドウォークの番頭さん、相京です。
朝晩の冷え込みも弱くなりバイク通勤でも大げさな防寒着は必要なくなってきました。
僕のクローゼットには今年ついに購入したクシタニの革ジャンが鎮座していますが、そういえば梅雨時期に革製品にカビが生えてしまったことがあります。
これからはカビが生えやすい季節といえますが、一度カビが生えてしまった革製品って復活させることはできるのでしょうか?
バイク乗りにとっては有名な革ジャンの老舗、カドヤが運営する革のクリーニング事業、リフレザーを担当する職人にお話を伺いました。
カビの生えた革ジャンは自分で復活させられる?

リフレザー事業部の高口さん
――以前革製品にカビが生えてしまったことがあるのですが、表面のカビを取れば使い続けることができるのでしょうか?
リフレザー職人「濡らして固く絞ったタオルで表面のカビをふき取って、匂いが残らなかったり再びカビが生えてこなければ大丈夫ですが、カビが長期間付着すると菌糸が革の組織深くにまで伸びてしまうので、カビの根が残ってしまうことがあります。基本的には表面のカビだけ取り除いても再発する可能性は高いですね」
――カビの根っこを取り除くためにはどうすればいいのでしょうか?
リフレザー職人「当社作業の場合カビに対しては専用溶剤を使用した水洗いが有効ですね。ただしカビの根を完全に取り除くことは非常に困難です。カビ拭き取り後には常に新鮮な空気を通してあげる事が大切ですし、なによりカビを生やさない事が第一です」
革専用の洗剤を使えば素人でも洗濯できるのか?

リフレザーには懐かしの二層式洗濯機が置いてあった。溶剤への浸し込みとすすぎ、脱水には使うことがあるが、洗濯槽を回して洗うことはしないとのこと。
――最近洗濯機で丸洗いできる革専用の洗剤が販売されていますが、それを使えば誰でも手軽に洗濯できちゃうのでしょうか?
リフレザー職人「革の知識なしに行うとリスクが高いものもあると思います。例えばデリケートな薄い羊革商品を全自動洗濯機で洗ったとして、脱水時に遠心力で伸びてしまうこともありえます。また濡れた革は熱乾燥機にかけると熱収縮を起こしてしまいます」
――なるほど・・・素人が洗濯する場合のリスクは他にもありますか?
リフレザー職人「他には硬化やシミ、シワですね。一度できてしまったシミを完全に消すのは難しく、また油分が抜けすぎて硬化してしまうと元に戻すことはできません」
リフレザー事業部には沢山の問い合わせがくるとのこと。その中でも安易に自分でメンテナンスを行い、取り返しのつかない事になってしまう事例はかなり多いという。
検索エンジンなどの情報だけを頼りに革のメンテナンスを行うのはリスクが伴うと警鐘を鳴らす。
普段のメンテナンスはどの程度の頻度で行えばいい?
――グーグルで調べた方法で定期的にメンテナンスをするようにしているのですが、オイルや防水スプレーはどの程度の頻度で行えばいいのでしょうか?
リフレザー職人「使い方によるので一概には言えない部分はありますが、お預かりする製品を見ていると多くの人はオイル塗布量が多すぎる傾向が見られます。状態に問題ない革であればオイル塗布は年に数回でも充分ですし、撥水スプレーは1~2年に1回でも効果は持続できると思います」
――そんなに少なくていいのですか?一か月に1回ぐらいやってたんですけど
リフレザー職人「オイルは塗りすぎれば革へ浸透せず表面に残り、ごみが付きやすくなります。更にカビ菌糸が付いた時にはカビの栄養にもなってしまいます」
メンテナンスは使用状況や革の種類によって頻度は異なるそう。愛着のある革製品なら頻繁に手入れしたくなるところだが、やり過ぎはデメリットもおおいのだとか。
革製品クリーニングの工程を見せてもらった

このカビが生えた革ジャンが復活するのか?
――今回はカビの生えた革ジャンをクリーニングを見せて頂けるとの事ですが、やはり水洗いですか?
リフレザー職人「そうです。すでにお話したようにカビには水洗いが有効なので今回は水洗いで進めますが、革質や状態、汚れの種類等によっては油で洗うドライクリーニングで行うこともあります」

ドライクリーニングのマシン。お恥ずかしながらドライクリーニングが油で洗う事というのを初めて知りました
――水洗いとドライクリーニングの判断はどのようにするのですか
リフレザー職人「油性汚れに対してはドライクリーニングの方が効果的なのでオイルを塗りすぎた物や油汚れがついてしまっている商品が主な対象になります。また、革に対しての負荷は水よりも比重が軽い油の方が小さいので、劣化気味の商品はドライクリーニングを行うこともあります。一方で油分浸透によって色合い変化が生じやすいヌメ革などには基本的に行うことはできません」
――水洗いの最初の工程は?

革表面よりメンテナンスが難しい内装はクリーニング時にはしっかり洗う
リフレザー職人「専用の洗剤を使い、ブラッシングで表面の汚れやカビを取っていきます。内襟、袖口などの身体と接する部分は汚れが付きやすい箇所や、お客様メンテナンスでも見落としが多いファスナー周囲、ポケットの中、プリーツの陰なども要チェックです」

洗濯機に水をためて手作業ですすぎを行う
――クリーニングは一着ずつ行うのですか?

水を吸った革が絡んで伸びないように大事にすくいあげていたのが印象的だった
リフレザー職人「そうです。この後脱水を行うのですが濡れて柔らくなった革は遠心力で伸びてしまうリスクもある為、脱水は様子を見ながら十数秒、長くても30秒くらいで行います」
――クリーニングすると油分がなくなって硬化が進んでしまったりしないんですか?

シンクに溜めたトリートメント液に浸す
リフレザー職人「革質や状態を見ながら使用する洗剤を選んでいるのでリスクは極力抑えます。それと洗いの工程が終わったらトリートメントの溶液に浸して表裏から油分を浸透させます。加えて、最終仕上げにオイル塗布も行います(起毛革を除く)」
――乾燥は自然乾燥ですか?

扇風機で乾かしていた
リフレザー職人「肩幅に合ったハンガーに吊るして一晩は扇風機で風を当てます。この段階である程度形も整えます。その後は数日~1週間程自然乾燥で十分乾かした後で最終検品~仕上げを行います」
――クリーニングによるシワはできないのでしょうか?

アイロン台は独特の形状
リフレザー職人「洗いによって発生したシワや、裏地のシワに対してはアイロンプレスで極力除去します。この際、着用によって生じている癖ジワはできるだけ残すよう全て手作業で対応します。革は一般的な衣服と同じような高温プレスでは熱収縮を起こすこともある為、中温で行うなどコツが必要な作業です」
あなたの革メンテナンス大丈夫?

こんなにピカピカに
カドヤが運営するリフレザーですが、もちろん他社製品もクリーニング可能。意外にも8割は他社製品をクリーニングしているのだとか。
僕が伺った際にもクシタニやRSタイチなどのバイク用品メーカーやAVIREXなどのアパレルメーカー製品も見かけました。
リフレザーには現在予約が殺到しており、預かってから返却するまで3か月程度はかかるという。

今回クリーニングの工程を実演してくださった前田さん
「革ジャンを汚れた状態で保管することはカビ発生や臭い等のトラブルに繋がり兼ねません。暑くなってもう着ないという時期、保管前にお預け頂く事をお勧めします。この時期のお預かりであれば本格的に使うシーズン前にはお返しできると思います」
とのことだった。
グーグルで調べた知識で革のメンテナンスをしていた僕にとっては驚きの連続の取材でした。
あなたの革メンテナンスの常識は大丈夫でしたか?メンテナンスを行う際は安易に行わず、自分で行うとしても数年に一度は専門業者に依頼することで長く使うことができそうです。
取材協力:株式会社カドヤ リフレザー事業部